問い合わせ対応は、AIを使えばかなりの部分を自動化できます。ただし、いきなりAIに全部を任せるのはおすすめしません。うまくいくのは「問い合わせの種類を分ける → よくある質問と定型文をそろえる → 自動の受付返信と振り分け → AIは下書きや一次対応にとどめて人に引き継ぐ → やり取りを記録する」という順番です。
電話、LINE、メール、ホームページのフォームと、問い合わせの入り口が増えるほど、「誰が返したのか」「返し忘れていないか」がわからなくなります。この記事では、少人数の会社やお店が、お客様を困らせずに問い合わせ対応を自動化する手順と、AIチャットボットが合う場合・合わない場合、気をつけたい点を解説します。
目次
問い合わせ対応は、AIでどこまで自動化できる?
受付、仕分け、返事の下書き、記録は、AIや自動化ツールに任せやすい作業です。一方で、値引きや契約の判断、クレームへの対応、お客様ごとの事情をくむ返事は、人が持っておくべき仕事です。
自動化しやすいのは、次のような作業です。
- 受付の返事:「お問い合わせを受け付けました」と、すぐに返す
- 仕分けと通知:内容を見て「見積もり」「予約」「質問」などに分け、担当者に知らせる
- よくある質問への回答:営業時間、場所、料金表のある商品、持ち物など、答えが決まっているもの
- 返事の下書き:過去の回答やよくある質問をもとに、AIが返事の文面を作る
- 記録:いつ、どの経路で、どんな問い合わせが来て、誰が対応したかを表に残す
人が持っておくべきなのは、次のような仕事です。
- 値引き、納期の約束、契約の内容など、会社として責任を持つ判断
- 怒っているお客様や、困りごとが深刻なお客様への対応
- 過去の経緯をふまえた、お客様ごとの提案
つまり、目指すのは「人がいらなくなる」ことではなく、「人が判断だけに集中できる」状態です。
問い合わせ以外の仕事も含めた進め方は、「AIで業務効率化するには?小さく始める5つの手順」で紹介しています。
自動化は、どんな順番で進めればいい?
おすすめの順番は次の5つです。前の段階ができていないまま次に進むと、AIが間違った答えを返したり、対応漏れが増えたりします。
- 問い合わせの種類を分ける
- よくある質問と定型文を先に作る
- 自動の受付返信と振り分けを入れる
- AIは「下書き」か「一次対応」で使い、人に引き継ぐ
- やり取りをスプレッドシートや顧客管理の仕組みに残す
ステップ1:問い合わせの種類を分ける
最初にやるのは、ツール選びではなく「どんな問い合わせが来ているか」を知ることです。1〜2週間ほど、届いた問い合わせを書き出してみてください。
書き出すのは、日時、経路(電話・LINE・メール・フォーム)、内容、答えた人、答えるのに調べものが必要だったか、の5つで十分です。並べてみると、問い合わせは次の4つに分かれます。
- 答えが決まっているもの:営業時間、場所、支払い方法など
- 調べれば答えられるもの:在庫、納期、空き状況など
- 人の判断がいるもの:見積もり、値引き、トラブルの相談など
- 手続きそのもの:注文、予約、キャンセルなど
自動化の効果が大きいのは、件数が多い「答えが決まっているもの」と、手で入力している「手続きそのもの」です。
ステップ2:よくある質問と定型文を先に作る
次に、答えが決まっている質問について「正しい答え」を文章にします。ホームページのよくある質問のページと、社内で使う返事の定型文の2つです。
ここを飛ばしてAIを入れるのは危険です。AIは、渡された材料がないと、それらしい答えを自分で作ってしまうことがあるからです。よくある質問と定型文は、そのままAIに渡す「答えの元」になります。先に整えておくと、AIを入れる前から、誰が返しても同じ答えになるという効果もあります。
ステップ3:自動の受付返信と振り分けを入れる
受付の返事と担当者への通知は、AIを使わなくても自動にできます。お客様にとっては「届いたかどうかわからない」不安がなくなり、社内では返し忘れが減ります。
- LINE公式アカウント:友だちから届いたメッセージに、決めておいた返事を自動で送る「応答メッセージ」があります。営業時間外や定休日でも、お客様を待たせずに返事ができます(LINEヤフー for Business「自動応答が可能に!「応答メッセージ」の機能や導入事例について」、2026年10月31日確認)
- ホームページのフォーム:多くのフォームの仕組みには、送信した人に受付のメールを返す機能があります
- 振り分けと通知:フォームやメールの内容に応じて、担当者のLINEやSlack(社内のチャット)に知らせます。ここはn8nのような自動化ツールでつなぐのが一般的です
自動の受付返信には、「自動でお送りしています」「担当者からのご連絡の目安」を書いておくと、お客様が次に何を待てばよいかがわかります。
ステップ4:AIは「下書き」か「一次対応」で使い、人に引き継ぐ
AIの使い方は、大きく2つあります。最初は「AIが返事の下書きを作り、人が確認して送る」形から始めるのが安全です。
- 下書き型:問い合わせが届くと、AIがよくある質問や過去の回答をもとに返事の案を作り、担当者に届けます。担当者は直して送るだけです。間違いがお客様に届く前に、人の目が入ります
- 一次対応型:AIがお客様に直接答えます。ただし、答えてよい範囲(よくある質問に書いてあること)を決め、それ以外は「担当者からご連絡します」と人に引き継ぎます
一次対応型にするときは、「いつ人に代わるか」を先に決めておきます。たとえば、よくある質問にない内容、金額や契約に関わる内容、不満や怒りが読み取れる内容、お客様が「人と話したい」と書いたとき、などです。引き継ぐときは、それまでのやり取りをまとめて担当者に渡すと、お客様に同じ説明をくり返させずに済みます。
AIと自動化ツールのn8nを組み合わせると、「届いた問い合わせをAIが読んで種類を分け、下書きを作り、担当者のLINEに送る」といった流れを作れます。n8nについては「n8nとは?できることと使い方を、実際の自動化の例で解説」で詳しく紹介しています。
ステップ5:やり取りをスプレッドシートや顧客管理の仕組みに残す
最後に、すべての問い合わせを1か所に記録します。経路がばらばらでも、記録が1つの表にまとまっていれば、対応漏れはすぐに見つかります。
記録する項目は、日時、経路、お客様の名前、内容の要約、担当者、状態(未対応・対応中・完了)、元のメッセージへのリンク、くらいから始めれば十分です。最初はGoogleスプレッドシートで構いません。お客様ごとの履歴をもっと細かく管理したくなったら、顧客管理(CRM)の仕組みに移します。
記録がたまると、「この質問が多いから、よくある質問に足そう」「この時間帯に問い合わせが集中している」といったことがわかり、ステップ2に戻って改善できます。
AIチャットボットが向いている会社・向いていない会社は?
AIチャットボット(AIが会話の形で自動で答える仕組み)は、同じ質問が多く、答えが決まっている会社に向いています。反対に、問い合わせのほとんどが個別の相談や見積もりの会社では、かえってお客様を待たせることになります。
向いているのは、次のような会社です。
- 営業時間、場所、予約の方法など、同じ質問が毎日のように来る
- 答えの元になる情報(料金表、商品の説明、よくある質問)がそろっている
- 営業時間外や休日の問い合わせが多い
- 答えを少し間違えても、お客様の損害につながりにくい内容が中心
向いていないのは、次のような会社です。
- 問い合わせの件数がもともと少ない
- 毎回、現場を見たり事情を聞いたりしないと答えられない
- 答えを間違えると、お金・健康・契約に関わる大きな問題になる
- 答えの元になる情報が、担当者の頭の中にしかない
向いていない会社でも、AIを使う方法はあります。お客様に直接答えさせるのではなく、受付と記録を自動にし、AIには返事の下書きを作らせる形です。
自動化するときに、気をつけることは?
気をつけたいのは、AIの間違った答え、個人情報の扱い、人に代わる道の3つです。どれも、仕組みを作る前に決めておけば防げます。
AIは間違えることがある
AIの答えには、事実と違う内容が入ることがあります。個人情報保護委員会も、生成AIの「応答結果に不正確な内容が含まれることがある」と注意を呼びかけています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023年6月2日)。
そして、お客様から見れば、AIの答えも「会社の答え」です。「AIが勝手に言ったこと」では済まないと考えておくべきです。
対策は、AIが答える範囲をよくある質問に限ること、答えの元になる情報を古いままにしないこと、そして最初は下書き型で始めることです。
個人情報をAIに渡すときのルールを決める
問い合わせには、名前、電話番号、住所などの個人情報が入っています。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIに個人情報を入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確認すること、そして入力したデータがAIの学習などに使われないかを確認することを求めています(同上)。
具体的には、使うAIサービスの利用規約で、入力した内容が学習に使われない設定になっているかを確かめます。また、AIに渡す情報は、答えを作るのに必要な部分だけにします。たとえば、返事の下書きを作るだけなら、電話番号や住所をAIに渡す必要はありません。
社内でAIを使うときのルール全体は、「生成AIガイドラインの作り方」を参考に決めておくと安心です。
人に代わる道を必ず残す
自動化しても、お客様が人と話せる道は必ず残します。自動返信の文面やチャットボットの最初の案内に、電話番号や「担当者に代わる」方法を書いておきます。
もう1つ大事なのが、社内で「人に回ってきた問い合わせ」を見落とさない仕組みです。引き継いだ問い合わせは担当者のLINEやSlackに知らせ、記録の表で「未対応」のまま残っていないかを毎日確認します。
お客様の窓口はそのまま、裏側だけ自動にした例は?
私たちZenJunが手がけた例に、物販の会社の注文の自動化があります。問い合わせではなく注文の例ですが、「お客様の連絡手段は変えずに、社内の作業だけを自動にする」という考え方は、問い合わせ対応にもそのまま使えます。
この会社には、LINEで送られてくる手書きの注文書の写真、FAX、電話の3つの経路で注文が届いていました。注文システムを入れると、取引先にログインして入力してもらう手間が増えてしまいます。そこで、取引先の注文のしかたは変えずに、n8nとAIで注文書を読み取り、スプレッドシートに登録する仕組みを作りました。
ポイントは次の3つです。
- AIが読み取った結果と元の写真を管理チームに送り、人が確認する
- 写真やPDFは保管し、スプレッドシートの各注文にリンクを貼る
- 電話の注文は、受けたスタッフがLINEに内容を送るだけで登録される
その結果、出先でもLINEに送るだけでその場で注文を登録できるようになり、注文の記録がはっきり残るようになりました。
Case
導入事例

物販の会社
LINE・FAXの注文書を、スプレッドシートに自動で登録
LINEで届く手書きの注文書、FAX、電話の注文を、n8nとAIで注文管理のスプレッドシートに自動で登録。出先からでもその場で登録でき、注文の記録がはっきり残るようになりました。
事例を詳しく見る問い合わせ対応でも同じです。お客様に新しいアプリやフォームを使ってもらうより、今お客様が使っているLINE・電話・メールのまま、受付・記録・下書きを自動にするほうが、お客様にも社内にも負担がかかりません。
自分たちで始める?それとも相談する?
ステップ1〜3の一部は、自分たちで今日から始められます。問い合わせの書き出し、よくある質問と定型文づくり、LINE公式アカウントの応答メッセージやフォームの受付メールの設定は、専門の知識がなくてもできます。
一方で、次のような場合は、専門家に相談したほうが早く、安全に進みます。
- LINE・メール・フォームなど、複数の経路を1つの記録にまとめたい
- AIに返事の下書きを作らせたいが、個人情報の扱いが心配
- 「人に引き継ぐ条件」や、例外のときの流れを作り込みたい
- 今使っているスプレッドシートや社内のチャットにつなげたい
私たちの業務効率化サポートでは、今お使いのLINEやGoogle Workspaceを活かしながら、問い合わせの一次対応や記録の自動化を、効果の出やすいところから小さく作ります。
まとめ
- 問い合わせ対応の自動化は、AIを入れる前の「種類分け」と「よくある質問・定型文づくり」から始める
- 受付の返事と担当者への通知は、AIを使わなくても自動にできる
- AIは、まず「下書き型」で使い、慣れてから答える範囲を決めて「一次対応型」に広げる
- 一次対応型にするなら、人に代わる条件と、引き継いだ問い合わせを見落とさない仕組みを先に作る
- AIの間違った答えは会社の答えとして受け取られる。個人情報は必要な分だけ渡し、学習に使われない設定を確かめる
- お客様の連絡手段は変えずに、裏側の受付・記録・下書きを自動にすると、お客様にも社内にも負担が増えない


