AIで業務効率化を進めるいちばんの近道は、毎日くり返している作業を1つだけ選び、今の仕事のやり方は変えずに、AIに「下書き」や「読み取り」を任せて人が確認する形で小さく始めることです。いきなり会社全体の仕組みを変えようとすると、費用も手間もかかり、現場に定着しないまま終わりがちです。
この記事では、AIで業務効率化できること・できないこと、最初に選ぶ作業の目安、小さく始める5つの手順を解説します。後半では、私たちZenJunがお客様の会社で実際に作り、今も使われている自動化(手書きの注文書の登録、タイムカードの入力)を例に、何がどう変わったのかを紹介します。
目次
AIで業務効率化は、どこまで進んでいる?
日本の企業でも、生成AI(文章や画像をつくるAI)を仕事に使う動きは広がっています。総務省の「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表)によると、2025年度の企業向け調査で、生成AIを「積極的に活用する方針」または「領域を限定して利用する方針」と答えた企業は68.9%でした。前年度の調査(49.7%)から大きく上がっています。
ただし、会社の規模で差があります。同じ調査で、この割合は大企業で74.0%、規模の小さい会社(白書の区分では中小企業)で58.1%でした。また、生成AIを使った仕事の見直しについて「組織的な取組はない」と答えた企業は27.0%(利用を禁止している企業を除いた割合)で、規模の小さい会社ほど高い傾向があるとされています。
使い道として多いのは「議事録・メール作成補助」で、使っていると答えた割合も、効果を実感していると答えた割合も約7割でした。生成AIを使うことで起こりうる影響として最も多く挙がったのも「作業時間の短縮などによる業務の効率化」(61.6%)です。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節 企業におけるAI利用の現状(調査は総務省(2026)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」)。2026年10月31日に確認。
つまり、「AIを使ってみる」会社は増えていますが、仕事の流れに組み込んで効果を出すところまでは、まだ進んでいない会社が多いということです。この記事では、その「組み込む」部分を中心に説明します。
AIで業務効率化できること・できないことは?
会社の仕事でAIが役に立つのは、大きく分けて「文章をつくる」「要約する」「読み取る」「分類する」「ほかのツールとつないで自動で回す」の5つです。反対に、最終的な判断や、間違えると大きな損になる作業を、確認なしで任せることには向いていません。
文章をつくる(下書き)
メールの返信、お知らせの文面、見積書に添える説明、求人票などの下書きをつくります。ゼロから書くより、AIが出した下書きを直すほうが早く済みます。大事なのは「下書き」として使うことです。そのまま送るのではなく、人が読んで直してから使います。
要約する
会議の録音や長いメール、資料をまとめて、要点だけを短く出せます。議事録づくりは、白書でも効果を実感している割合が高かった使い道です。
読み取る(手書き・写真・PDF)
手書きの注文書の写真、FAXの画像、PDFの請求書などから、必要な項目(日付・品名・数量など)を読み取って、表に入れやすい形にできます。以前の読み取りの仕組みは、書類の書式ごとに「どこに何が書いてあるか」を設定する必要がありました。今のAIは、書式が少し違っても内容を読み取れることが多いのが強みです。
分類する・振り分ける
届いた問い合わせを「注文」「質問」「クレーム」に分ける、経費を勘定科目の候補に分ける、といった仕事です。決まった区分に当てはめる作業は、AIが得意とするところです。問い合わせの振り分けから返事までの進め方は「問い合わせ対応をAIで自動化する方法」で解説しています。
ほかのツールとつないで、自動で回す
ここまでの4つは、ChatGPTやClaudeの画面に自分で貼り付けて使うこともできます。さらに、n8nのような自動化ツールとつなぐと、「LINEに写真が届いたら、AIが読み取って、スプレッドシートに登録する」といった流れを、人が操作しなくても動かせます。業務効率化の効果が大きく出るのは、多くの場合この段階です。n8nの仕組みは「n8nとは?できることと使い方を、実際の自動化の例で解説」で詳しく説明しています。
AIが苦手なこと
- 間違いのない答えを毎回出すこと:AIはもっともらしい間違いを出すことがあります。数字や固有名詞は必ず確認が必要です
- 会社の事情をふまえた判断:値引きしてよいか、どの取引先を優先するかといった判断は、人が行います
- 書かれていない情報を知ること:社内のルールや過去の経緯は、教えない限りAIは知りません
最初の1つは、どう選ぶ?3つの目安
最初に効率化する作業は、「時間がかかっている」「手順が決まっている」「ミスが起きると困る」の3つに当てはまるものから選ぶと、効果が見えやすく、現場にも受け入れられやすくなります。
- 時間がかかっている:1回は短くても、回数が多い作業は合計すると大きな時間になります。「1回にかかる時間 × 月の回数」で比べます
- 手順が決まっている:毎回同じ順番で、同じ判断をしている作業は、AIや自動化に置き換えやすい作業です
- ミスが起きると困る:転記ミスや入力漏れが、発送漏れや請求の間違いにつながる作業です。人が手で写すより、AIが読み取って人が確認するほうが、漏れを防ぎやすくなります
反対に、最初は避けたほうがよいのは「やり方が人によって違う作業」と「年に数回しかない作業」です。前者は、AIを入れる前に手順をそろえる必要があります。後者は、仕組みをつくる手間に見合いません。
業務効率化のアイデア:よくある最初の候補
私たちがご相談を受けるなかで、最初の1つになりやすいのは次のような作業です。
- LINE・FAX・メールで届く注文書や依頼書を、表やシステムに転記する
- 取引先から届くタイムカードや日報を集計する
- 問い合わせへの最初の返信や、内容の振り分け
- 見積書・報告書・議事録の下書きづくり
- 決まった連絡やリマインドを、SlackやLINEで送る
AIで業務効率化を小さく始める5つの手順
小さく始める手順は、「業務の棚卸し」「1つ選ぶ」「試す」「人の確認を入れる」「広げる」の5つです。最初から完璧な仕組みを目指さず、1つの作業で効果を確かめてから次に進みます。
1. 業務を書き出す(棚卸し)
まず、1〜2週間ほど、毎日の作業を書き出します。紙でもスプレッドシートでもかまいません。「何の作業か」「1回に何分かかるか」「月に何回あるか」「誰がやっているか」の4つがわかれば十分です。書き出してみると、「この転記に毎日30分使っていた」といった、普段は気づかない時間が見えてきます(数字は例です)。
2. 1つだけ選ぶ
書き出した作業から、前の章の3つの目安に当てはまるものを1つ選びます。ここで欲張らないことが大切です。1つの作業で効果が出れば、社内に「AIを使うと楽になる」という実感が生まれ、次の作業に進みやすくなります。
選ぶときは、今のやり方を変えずに済むかも考えます。取引先やお客様に新しい操作をお願いする仕組みは、相手の協力が必要になり、定着しにくくなります。
3. 手元で試す
いきなり仕組みをつくらず、まずはChatGPTやClaudeの画面で、実際の書類やメールを使って試します。「この注文書の写真から、日付・品名・数量を読み取って」と頼んでみて、どれくらい正しく読めるかを確かめます。個人情報や取引先の情報が入っている書類は、名前や連絡先を隠してから試します。
このとき、今の作業に何分かかっているかを測っておきます。導入した後の効果を比べるためです。
4. 人の確認を入れる
AIの結果を、そのまま発送や請求、給与の計算に使わないようにします。どこで、誰が、何を見て確認するかを決めておきます。たとえば、AIが読み取った結果と元の写真を並べて担当者に送り、目で見比べてもらう形です。
元の書類(写真やPDF)は必ず残しておきます。あとで「本当にこの数量だったか」を確かめられるようにするためです。
5. 効果を確かめて、広げる
しばらく使ってみて、時間がどれだけ減ったか、ミスや漏れが減ったかを、手順3で測った時間と比べます。うまくいかなかった点を直し、現場で問題なく回るようになってから、次の作業に広げます。手作業で貼り付けて使っていたものを、自動化ツールで自動にするのもこの段階です。
実際に変わった2つの例
ここでは、私たちがお客様の会社で作った自動化を2つ紹介します。どちらも、取引先のやり方は変えずに、社内の作業だけをAIと自動化ツールのn8nで減らした例です。
例1:LINE・FAXの注文書を、スプレッドシートに自動で登録(物販の会社)
この会社には、注文が3つの経路で届いていました。LINEで送られてくる手書きの注文書の写真、FAX(メールで受信)、そして電話です。注文管理のスプレッドシートはありましたが、入力するにはパソコンを開く必要がありました。外での作業も多く、事務所に戻ってから入力するため、パソコンを立ち上げて入力するまでに1件あたり最低でも5分かかっていました。入力が後回しになり、発送漏れが起きることもありました。
別の会社から注文システムを入れる提案もあったそうですが、それでは取引先がログインして注文内容を入力しなければなりません。そこで、取引先のやり方は変えずに、次の仕組みをつくりました。
- LINEに注文書の写真が届いたら、AIが読み取ってスプレッドシートに登録する
- FAXはメールで届くので、メールの受信をきっかけに同じ処理をする
- 電話の注文は、受けたスタッフがLINEに内容をチャットで送るだけで登録される
- 読み取った結果と元の写真を管理チームに送り、人が確認する
- 写真やPDFは保管し、スプレッドシートの各注文にリンクを貼る
今は、出先でもLINEに写真かチャットを送るだけで、その場で注文を登録できます。注文の記録がはっきり残るようになり、発送の前にリンクから元の注文書を見直せるようになりました。
例2:書式がばらばらのタイムカードを、システムに自動入力(取引先で働くスタッフが多い会社)
この会社では、スタッフが複数の取引先で働いていて、月末にはそれぞれの取引先からタイムカードがメールで届きます。困っていたのは、取引先ごとに書式が違うことでした。
書式ごとに読み取るシステムをつくることも考えたそうですが、書式を1つ増やすたびに費用がかかり、取引が終わる取引先や、働くスタッフが1人だけの取引先もあるため、費用に見合いませんでした。そこで、n8nとAIで、メールで届いたタイムカードを読み取ってシステムに自動で入力する仕組みをつくりました。AIが書式の違いを読み取るので、取引先が増えても書式ごとの設定を作り込む必要がありません。
1人分の入力に10分ほどかかっていた作業が、確認だけの1分ほどになりました。月末の作業は、入力されたデータを確認するだけです。
Case
導入事例
2つの例に共通すること
2つの例には、うまくいった理由として共通する点が3つあります。
- 相手のやり方を変えていない:取引先は今までどおりLINE・FAX・電話で注文し、今までどおりの書式でタイムカードを送っています。誰にも新しい操作をお願いしていません
- AIに任せたのは「読み取り」だけ:最後に確認するのは人です。AIの読み間違いがあっても、元の書類と見比べて直せます
- 書式の違いをAIが吸収している:書式ごとに設定をつくる従来の方法では費用が合わなかった作業も、AIなら1つの仕組みで扱えます
これが、私たちが「入れること」より「定着すること」を大事にしている理由です。便利な仕組みでも、使う人の手間が増えれば使われなくなります。今の仕事の流れに、そっと組み込むのがポイントです。
自動化ツールのn8nにかかる費用は、実行回数の数え方とあわせて「n8nの料金はいくら?クラウド版とセルフホストの費用」で解説しています。
AIで業務効率化するときのリスクは?先に決めておきたいルール
AIを仕事で使うときに先に決めておきたいのは、「AIに入れてよい情報」「確認する人」「止まったときの対応」の3つです。白書の調査でも、日本の企業が懸念するリスクとして最も多かったのは「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」で、次が「出力結果の精度に問題がある」でした。社内ルールのひな形は「生成AIガイドラインの作り方」にまとめています。
AIに入れてよい情報を決める
個人情報保護委員会は、会社が生成AIサービスに個人データを含む指示を入力する場合について、本人の同意なく入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われると個人情報保護法に違反する可能性があると注意を呼びかけています。そのため、入力する前に、サービスを提供する会社がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023年6月2日)。
実際の運用では、次の点を決めておくと安心です。
- お客様の名前・連絡先・取引の金額などを、どのサービスに入れてよいか
- 使うサービスやプランで、入力した内容がAIの学習に使われない設定になっているか(会社向けのプランや設定があるか)
- 社員が個人のアカウントで使ってよいか
確認する人と、確認のしかたを決める
AIは、もっともらしい間違いを出すことがあります。どの作業で、誰が、何と見比べて確認するかを決めておきます。前の章の2つの例では、どちらも「元の書類」と「AIの結果」を人が見比べる形にしています。
止まったときに気づけるようにする
自動化の仕組みは、つないでいるサービスのログインが切れたり、想定外の書類が届いたりすると、途中で止まることがあります。止まったら担当者に通知が届くようにし、そのあいだは手作業に戻せるようにしておきます。また、作った人しか直せない状態にならないよう、何をしている仕組みかを書き残しておきます。
外部に頼んだほうがいいのは、どんなとき?
ChatGPTやClaudeを画面で使う段階までは、社内で十分に進められます。外部に相談したほうが早いのは、「複数のツールをつないで自動化したいとき」「社内に任せられる担当者がいないとき」「止まると困る仕事に組み込むとき」の3つです。
- 何から始めればよいかわからない:業務の棚卸しと、最初の1つ選びから一緒に進めるのがAI導入支援です
- AIとツールをつないで自動化したい:LINE・Google Workspace・Slackなど、今お使いのツールを活かして仕組みをつくるのが業務効率化サポートです
- 社員がAIを使えるようになってほしい:自社の仕事を題材に使い方を学ぶAI研修があります(熊本で受けられる研修やセミナーは「熊本で生成AIを学ぶには」で紹介しています)
- 市販のツールでは足りない:専用の仕組みが必要なときはシステム開発になります。費用の考え方は「システム開発の費用相場は?」、契約の形の違いは「請負と準委任の違いとは?」で解説しています
熊本県内の会社であれば、AIの導入や研修の費用に使える国・県・市の制度もあります。今申し込める制度は「熊本の補助金・助成金|企業のAI導入・DXに使える制度」にまとめています。
私たちZenJunは、熊本を拠点に、全国の会社のAI活用と業務効率化をお手伝いしています。代表は、ITエンジニアとしてシステム開発に携わり、開発の現場で生成AIを使いこなしてきました。そのうえで、大がかりなシステムより先に、今の仕事の流れを活かした小さな仕組みをおすすめしています。
よくある質問
無料のChatGPTでも業務効率化はできますか?
文章の下書きや要約を試すことはできます。ただし、無料や個人向けのプランでは、入力した内容がAIの学習に使われる設定になっていることがあります。お客様の情報や社内の情報を入れる前に、設定やプランを確認してください。仕事で使い続けるなら、会社向けのプランも検討します。
社内にITに詳しい人がいなくても始められますか?
始められます。最初の「業務の書き出し」と「1つ選ぶ」は、ITの知識がなくてもできます。むしろ、その作業を毎日している現場の人がいちばん詳しいはずです。ツールをつなぐ部分だけを外部に任せる方法もあります。
効果はどれくらいで出ますか?
作業の内容によって大きく変わるため、一律には言えません。効果を確かめるために、始める前に「今の作業に何分かかっているか」「月に何回あるか」を測っておくことをおすすめします。前後の時間を比べれば、効果がはっきりわかります。
まとめ
- AIで業務効率化するなら、毎日くり返している作業を1つ選び、小さく始めるのが近道です
- AIが役に立つのは「文章をつくる」「要約する」「読み取る」「分類する」「自動でつなぐ」の5つ。最終的な判断は人が行います
- 最初の1つは「時間がかかる」「手順が決まっている」「ミスが起きると困る」作業から選びます
- 手順は「棚卸し→1つ選ぶ→試す→人の確認を入れる→広げる」の5つです
- 実際の例でも、取引先のやり方を変えず、AIには読み取りを任せ、最後は人が確認する形で定着しています
- 先に「入れてよい情報」「確認する人」「止まったときの対応」を決めておきます
どの作業から始めればよいか迷ったら、まずは今の仕事を書き出すところから始めてみてください。書き出した内容をもとに、AIに向いている作業を一緒に考えることもできます。




